辛淑玉(しんすご)
居酒屋のテレビで野球中継を見ていたら、横にいた男性がアニメ『巨人の星』の主題歌を歌い出した。「♪おっもぉいーい、こんだぁらぁ、試練のみーちーをー、行くがぁ〜オトコの〜、ど根性〜」。…ムカついてしまった。
私「思いこんだら状況が変わっても耐えて同じ事を続けるのは無謬主義というのよ。今の官僚制度そのものだわ」
男「いえいえ、父の夢を息子が継ぐ。男のロマンですよ」
私「夢ねぇ…。星一徹は一度でも息子・飛雄馬の意思を聞いたことがある?本人の意思を無視して将来を決めるのは親のエゴ。大リーグボール養成ギブスって児童虐待そのものよね」
男「野球と言えば巨人。大学だって東大が一番でしょ?」
私「金で選手を買いあさる巨人軍っていうのは、ファンも強者の論理なのね。阪神ファンと違ってダメなものを可愛がる気持が欠けてるわ。強い者が正しかった歴史なんかないのよ」
男「何言ってんだよ。飛雄馬の苦労したお姉さんは、弟のライバル花形みつるの嫁さんになったじゃないか。玉の輿だろ?これも父親が野球をやらせていたおかげだ!」
私「お姉さんが幸せだったという保証はあるの?暴力的な父親に一度として反抗したことがある?彼女はいつ自立したの?母親代わりに家の仕事をして、そのまま専業主婦になったんでしょ?父親の手から新しい支配者の手に渡っただけじゃない?だいたい花形みつるは、小学生のくせに車に乗っていたのよ。捕まらなかったのは金持ちだからじゃないの。貧乏人ならとうにお縄だわ。そういう感性の男の所に嫁いだのよ」
男「……」
私「言葉に窮すると暴力に走る男を、男の腐ったヤツっていうのよ。ふふふ。ちゃんと議論しましょうね」
プロフィール
東京生まれの在日コリアン3世。(株)香科舎代表。人材育成技術研究所所長。毎月開催しているプレゼンテーションセミナーは年間約150名が受講。最近は「女性・人権」にかかわる研修・講演のため全国を飛び回る。著書には『在日コリアン胸のうち』『強気を助け弱気をくじく男たち』など。第3期東京都生涯学習審議会委員、かながわ人権政策推進懇話会委員などを務める。