大石芳野(おおいしよしの)
戦争の世紀とも言われた20世紀を超えて、いのちを尊ぶ時代を期待した。というよりも、決意のようなものを抱いた。けれど、「同時多発テロ」を受けて以来、吹き飛んでしまった。
米・英軍による報復の爆撃が始まり、アフガニスタンの人々が恐怖(terror)にさらされた。世界中の視線の中で、彼らはいのちを奪われ削られている。
今、私たちは「テロ(terrorism)」に巻き込まれることを恐れて、海外旅行も差し控えている。けれども、今回の事態は本当に「突然」のことだったのだろうか。
1979年の旧ソ連軍による侵攻以来、20年余り、アフガニスタンの人々は戦禍に見舞われ、女性は虐げられてきた。しかし、私たちは、一部の人たちを除いて国際社会もろとも無視と差別を繰り返した。屈辱感がテロ行為とも結びついていくことを感じながらも、知らないふりをしてきたのではなかったか。
とすると、「テロ」も「報復のアフガン戦争」も、決して突然ではなかったとも言える。
長い歳月の中で熟されていく人間の怨念を、早期に取り除くためにはどうしたらよいのだろうか。多分、そのためには、私たち女性の柔らかな感性が大いに役立ちそうだ。一口に女性といってもさまざまだが、平和を求める気持はより強いと思う。男性社会への遠慮をなくし、偏見を払拭し、心を沈めながら深く考えると、いのちを弄ばれている人たち、とりわけ女性や子どもたちの姿が見えてくる。
女性だから考えられること、できること、つながっていけることなどを、こんな時代だからこそ極めていきたいものである。
プロフィール
1944年東京生まれ。大学卒業後、ドキュメンタリー写真に携わる。写真集『夜と霧は今』『沖縄に活きる』『HIROSHIMA 半世紀の肖像』『カンボジア苦界転生』『ベトナム凛と』他。エッセイ集『沖縄若夏の記憶』『小さな草に』『あの日、ベトナムに枯れ葉剤がふった』他。芸術選奨文部大臣新人賞、日本ジャーナリスト会議奨励賞、日本写真協会年度賞、児童福祉文化賞、土門拳賞などを受賞。