宮地 光子(みやちみつこ)
DV防止法が施行されて半年が経過した。すさまじい夫の暴力から逃げてきた女性が、私の元にもやってきた。彼女の身の安全を確保するために、裁判所への保護命令申立を準備する。どんな思いでここまできたのか、彼女の日記をたどる。「夫から逃げていいんよね!私悪くないんよね!何度も自分自身に問いかける。間違ってはないんやという確信がほしい」―家を出る数日前の日記は、そう締めくくられていた。
暴力が許されないことは自明のことである。しかし暴力を振るう夫の元から逃げ出すにも、女性は自分自身との大変な葛藤を乗り越えなければならない。悪いのは夫ではなくて、夫に暴力を振るわせる自分が悪いのだと思い込まされてきたから。
考えて見ると、この被害者と加害者が逆転させられる構図に、弁護士である私は、いつも直面させられてきた。
「どうして、私たちは男性の半分の賃金なの?組合や会社に掛け合っても『やっている仕事の内容が違う、潜在的能力が違う』と言われてしまう。そしてそう言われると、仕方のないことだと思ってしまう」。
どれだけ多くの働く女性たちが、こうしてあきらめさせられてきたことか。
「あなたが悪いのではなくて、仕事を与えなかった会社、能力開発の機会を与えなかった会社こそが、まず責任を問われるべき」と当たり前のことを伝えると、彼女たちはやっと均等法の調停申請、裁判へと立ち上がっていった。そしておかしいことに、「おかしい」と声を出せたことで、誇りを取り戻していった。
「私は間違っていない」という確信−それこそが女性たちが人生を自分の手に取り戻すための出発点なのだと改めて思う。
プロフィール
1952年生まれ。弁護士・女性共同法律事務所所属。働く女性たちのネットワーク組織「ワーキング・ウィメンズ・ネットワーク(WWN)」世話人。住友メーカー系3社男女賃金差別事件など現在9件の男女賃金差別事件を担当。著書に「女の労働基準法」(共著・労働旬報社)、「コース別管理とのたたかい」(共著・学習の友社)、「平等への女たちの挑戦―均等法時代と女性の働く権利」(明石書店)等。