橋本紀子(はしもとのりこ)
私は1970年代末に1年半ほど北欧フィンランドの首都ヘルシンキで暮らした。文字どおりの男女平等を実現するために、当時、すでに夏休み1か月、週休2日制、男性もとれる有給の育児休暇制度などが始まっていた。あれから、20年以上経ち日本もいろいろな制度ができつつあるが、現実にそれが機能しているかというと必ずしもそうではない。それは、職場も家庭も学校も含めて日本の社会が根強い男女特性論の存在する社会であるからだ。特に女性が結婚、出産後も労働を継続することを当然とする意識も、それを支えようとする社会システムも北欧社会に比べてまだまだ不十分である。それは、裏返せば男性は妻子を養う存在として、子どもの時から期待され教育されているということでもある。
このような伝統的なジェンダー観から自由になって、子どもたちがジェンダー・フリーなセンスを身につけ、男女共に将来の進路選択の幅を広げることができるようになるためには、幼児期の子育てもジェンダー・フリーの視点で行う必要がある。これは、親や子育て支援者、さらには周囲の大人たちに、家庭や保育園における日常の行動や習慣の見直し、意識変革を日々要求することになる。
子育て支援活動は、子育ての具体的な助言や手助けだけではなく、このような意識変革の部分も含んで、また、母親だけではなく、父親に対しても行われる必要がある。スエーデンでは1990年代にこれから父親になる人を対象にしたトレーニング・プロジェクトを行い、男性の意識変革と父親への準備に一定の成果をあげた。日本でもこのような試みがあってもいい。さらに、子育て支援者や子育てボランティアに男性の参加者を得ることも、今後、重要である。子育て支援活動も女性の活動から、両性の共同活動になって始めて、男女共同参画社会時代の活動と言えるようになるだろう。
プロフィール
1945年秋田県生まれ。女子栄養大学・大学院教授。東京大学客員教授。社会学博士。現代の生と性と死にかかわる諸問題を研究指導領域としているが、ここ数年、ジェンダー・フリー教育、人間関係教育としての性教育を主なテーマとして研究をすすめている。著書に、『女性の自立と子どもの発達』(群羊社)、『男女共学制の史的研究』(大月書店)、『性の授業―小学校編』『同―中学校編』(共編,大月書店)、『ジェンダー・フリーの絵本全6巻』(共編著,大月書店)、『Weman & Men in Japan』日本のジェンダー統計』(民主教育研究会)、『仕事と家族と幸福感』(共訳,大月書店)など。