林陽子(はやしようこ)
私は現在、2001年の夏に行われた参議院議員選挙で公職選挙法違反(文書違反)で起訴された女性運動員(ボランティアのスタッフ)の弁護活動をしている。2001年の暮れから始まった裁判もようやく結審を間近に迎えようとしている。公職選挙法が文書を制限し、違反すると刑事罰で制裁を科すようになったのは、大正時代の普通選挙法、治安維持法の時代にさかのぼる。普通選挙によってそれまでの支配層以外から議員が誕生することを時の権力は嫌ったのであろう。そのような法律が敗戦後も生き残り、ボランティアとして「勝手連」方式の選挙事務所に出入りしていた主婦が、何の警告もなくいきなり被疑者としての出頭を求められ、長時間にわたる取り調べの結果、「犯人」とされて起訴されたのである。その警察署は直前に不祥事が大きく報道されたところで、「あの事件の汚名を挽回するためにこの件(文書違反)は頑張るんだ」と刑事たちが言っていたという。こんな弱い者いじめをしていないで、もっと他の犯罪対策をやってほしい、と思わざるを得なかった。
今年は4年ぶりの統一地方選挙の年。女性議員の比率は、都道府県議会で5.5%、市・区議会で10.7%、町村議会で4.5%。この数をどこまで伸ばし、男女共同参画の実質を高められるか、私は女性たちの力に大きな期待を持っている。他方で、女性たちの選挙運動が盛んになるにつれ、違反に対する警告や摘発も増えると思う。法律を知り、万全の対策をとるべきである。納得のいかない警告や、警察の不当な介入に対しては、弁護士を立てて交渉し、「女の選挙」の質をもっと高めていくことを提言したい。
プロフィール
1956年茨城県水戸市生まれ。1983年より弁護士。現在、ミネルバ法律事務所所属。女性の緊急避難センター(特に外国人女性への支援)「女性の家HELP」の顧問弁護士として、人身売買被害者の救済に努めた。自由人権協会理事(前事務局長)として、女性差別撤廃条約など国際的な人権条約を日本の司法に生かすことに力を注いでいる。