月刊 We learn バックナンバー

バックナンバー一覧

2003年11月号(No.613)

  • 巻頭言:傷痕の写真が語るもの/石内都
  • 【新企画】誌上アートギャラリィ:フォトエッセイ Jigsaw Puzzle 14/落合由利子
  • 研究レポート:性暴力の根絶と戦争肯定社会/角田由紀子
  • 学習情報クリップぼ〜ど:小・中学生夏休み講座(生きるってすてき茨木市立男女共生センター)
  • シネマ女性学:『サロメ』
    スペイン映画(86分)/カルロス・サウラ監督
    夢に生きる芸に懸ける/松本侑壬子
  • Welearn情報:「女性の“学び”プロデュース講座」を実施して
    クレオ大阪東/高橋俊也
  • 活動情報:性教育とジェンダー−紙芝居出前講座を通して
    御津町りんごの会/池上淑恵
  • Women's View:
    少女のスポーツ環境を考える/山口理恵子
    共に踏み出す「回復への一歩」/高橋実生
  • 今どき学習ウォッチング:聞いて聞こえず、見て見えず
  • このひと:正井礼子さん(ウィメンズネット・こうべ代表)
  • きょうのキーワード:子育てネットワークデータベース
  • 新刊案内:男女共同参画社会に関する国際比較調査(平成14年度調査)
  • 【新企画】なるほど!ジェンダー:アシスタントは女性=飾り物!?/イラスト:高橋由為子

巻頭言

傷跡の写真が語るもの

石内都(いしうちみやこ)

 からだの皮膚に残る傷跡の写真を撮っている。傷跡は、普通他人に見せたり人前に晒すものではなく、どちらかと言えば負のイメージが強い。ソッとしまっておくか、他人に見せない工夫をするもので、非常にプライベートな領域にある。なぜそのような個人の秘密に近いものを写真に写そうと思ったのか。それはある人との出会いからだった。
 大きな傷跡をもつその人は、まるで古い写真を見ているような口調で傷跡をいとおしみながらなつかしそうに私に語り始めた。その話を聞いているうちに、過ぎた時間、過去の光景が目に見えるカタチとなり、思い出や記憶といった人の歴史が傷跡の中に凝縮されて、そのからだに在るのではないかと感じたのだ。
 それ以来傷跡の撮影をしているが、近年発表する機会が増えてきたせいか、撮影の依頼が多くなり、そのほとんどが女性からである。初期のころは男性の写真のみだった。男性は傷をもっていることに意外とラフな感覚であったりするが、しかし、女性は社会的価値観の中で深く傷つく現実がある。病気、事故、事件、さまざまな予期せぬ出来事の結果として、一生消えない傷。人は無垢であり続けたいと願望しながら、有形無形の傷を負って生きざるを得ない。だが、からだに残る傷跡はその痛々しさとは裏腹に、生きるエネルギーのしたたかな強さと美しさを併せもち、そのディテイルの陰影は感動的な物語でもある。
 意識的に女性の傷跡を撮り続ける今、彼女たちが傷跡をひとりで抱きしめているのではなく、写真を通して客観的に自分自身を見るという経験によって、生きている現実を直視しようとしている姿勢は、頼もしい力となって私の写真を支えてくれている。

プロフィール
1947年群馬県生まれ。写真家。思春期を過ごした土地の空気や匂い、気配などを写真に撮りながら心の奥にわだかまっていた記憶の糸を写真に見いだす。40歳を迎えて同じ年に生まれた女性の手と足のシリーズ「1・9・4・7」で人間の皮膚へと展開。現在“SCARS”(傷跡)を撮り続けている。近作は母の皮膚と遺品で構成した“Mother’s”を発表。第4回木村伊兵衛賞、第11回・第15回写真の会賞、第15回東川国内作家賞受賞。

いまどき学習ウォッチング

男性の地域デビュー

 ある講師が次のようなゼミの学生の感想を紹介した。「親が性別役割分担状況で子どもに手伝いをさせると、性別役割分担意識が再生産されてしまう。こういう現状では、果たして子どもの手伝いを奨励することがよいのかどうかわからなくなってしまった」。なかなかおもしろい話である。母親だけが必死に料理に洗濯に掃除に奮闘しているのを手伝うよりも、皆が協力している中で自分の役割を見つけたほうが、子どもだってきっと楽しいに違いない。
 その講座の帰途、2人連れの参加者が「子どもに手伝いをさせるのがよくないなんて…。ああいう先生は困るわね!」と、憤然と言い合うのを聞いた。「何か変な方向に話がいってしまったな」と感じた。と同時に、話は聞きっ放しではなく、同じくらいの時間をかけてどう聞いたかの確かめ合いをしないと、「聞いて聞こえず、見て見えず」、個人の意識や認識の枠を超えられないと思った。自分のとらえ方のふり返り。ある意味ではここからが本当の学習である。
 それにしても、このプロセスをもった学習があまりにも少ないように思う。

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