2004年6月号(No.620)
- 巻頭言:ジェンダ−と法律/辻村みよ子
- 誌上アートギャラリィ:フォトエッセイ Jigsaw Puzzle 21/落合由利子
- 研究レポ−ト:今改めて問う「ジェンダ−・フリ−」の意味/堀内かおる
- 学習情報クリップぼ〜ど:〈対話型セミナ−〉男女共同参画のアポリア
−日ごろの疑問を語り合おう/寝屋川市立男女共同参画推進センタ− - シネマ女性学:『ハナのアフガンノ−ト』
イラン映画(73分)/ハナ・マフマルバフ監督
13歳のカメラがとらえた“狂気”の喜び/松本 侑壬子 - 活動情報(1):DV防止啓発用カレンダ−作成への取組−語りを通してのエンパワ−メント/武内昭子
- 活動情報(2):地域交流をめざしたイベントづくり−ビスタ−リ・マ−ムの活動/石田香代子
- Women's View:
平和への道‐平等・対話・協力/松木和美
私の振り子はもう揺れない/野原牧子 - 今どき学習ウォッチング:“つまみぐい”参加
- このひと:代表岩本聖子さん(「障害児とワ−キングマザ−ネットワ−ク」)
- きょうのキーワード:改正児童虐待防止法
- 資料情報:第7回世界青年意識調査
- なるほど!ジェンダー:女子は言いにくい?!給食の“おかわり”/イラスト:高橋由為子
巻頭言
ジェンダーと法律
辻村みよ子
「私作る人、僕食べる人」というコマーシャルが問題になったのは、30年も前の国際婦人年(1975年)のころだ。さすがに、最近ではこの種のCMは姿を消したし、1999年には男女共同参画社会基本法も制定されて、性別による固定的な役割分担意識・制度・慣行や性差別の打破がめざされた。
しかし、実際には、司法や法律上でさえ、性別に基づく偏見や固定観念(ジェンダー・バイアスやステレオ・タイプ)が存在し続けている。例えば、交通事故で死亡した女児の逸失利益の算定にあたっては、男性の65%しかない女性の平均賃金を基礎にした結果、男児の損害賠償額より低くする判例・実務が続いてきた。最高裁判所も、女性のみに(妊娠していない女性や高齢者の再婚についても例外なく)一律に婚姻解消後6ヵ月の再婚禁止期間を課す民法733条の規定について、女性が産む性であることを理由に、いとも簡単に憲法違反ではないと判断した。
このような現状に疑問を抱いて、ジェンダーに敏感な視点から既存の法制度や司法のあり方を再検討することが求められてきた。今春からスタートした法科大学院(ロースクール)では、ジェンダーや人権感覚に優れた法曹を養成するため「ジェンダーと法」の講座をおいたところも多い。また昨年末には、ジェンダーの視点から、学際的に法学研究を深めることを目的として、「ジェンダー法学会」も設立された。
今後は、固定的な性別役割分業システムを転換して、個人が男女という性別ではなく、その意欲・能力・適性に基づいて自己の生き方を選択できる男女共同参画社会を形成するために、ジェンダーに敏感な視点から、法律をつくり、監視し、適用することが期待される。そして国民の一人ひとりが、ジェンダー問題を学び、ジェンダー・バイアスを見直すことによって、そのような社会の担い手となるよう努力しなければならない。
プロフィール
1949年東京生まれ。憲法学専攻。東北大学大学院法学研究科教授。平成15年度COEプログラム「男女共同参画社会の法と政策」拠点リーダー、日本学術会議「21世紀の社会とジェンダー」研究連絡委員会幹事、内閣府男女共同参画局「ポジティブ・アクション研究会」メンバー等。著書に『女性と人権』『市民主権の可能性』『比較憲法』『憲法(第2版)』など。
いまどき学習ウォッチング
“つまみぐい”参加
「お好きなときに、お好きなものを…」、と多様なニーズに応えるきめ細かなサービスが次々と提供されるようになった。確かに個々の好みと都合に合わせてくれる仕組みは便利だ。だが一方、学習の場で“好みと都合”を優先させるようなことがあると、ちょっと困ったことが起きる。
例えば連続講座では「全回参加が条件」と申し込み時に念を押しても、適当に興味のあるところだけ参加する人が必ず何人かいる。
グループワークを基本にした講座は、グループ内の関係づくりの積み重ねを想定して全体が構成されている。自分本位の参加者が入れば、当然学習の流れは乱されてしまう。
それは、他の参加者の学習を阻害するだけでなく、自分にとっても力をつけることにはならない。残念ながら、このことに一番気づいてほしい当の本人が気づかないまま終わるケースが少なくない。共同で学習をしていくには、それなりのマナーと覚悟が必要である。“つまみぐい”では、めざす学習効果は得られない。